名古屋高等裁判所 昭和55年(行コ)17号 判決 1983年6月28日
控訴人(原告) 伊藤静男
被控訴人(被告) 国
訴訟代理人 服部勝彦 木村三春
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における新たな請求に関する訴えを却下する。
当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者双方の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2(一) 被控訴人は控訴人に対し自衛隊法(昭和二九年六月九日法律第一六五号)、国税通則法(昭和三七年四月二日法律第六六号)、国税徴収法(昭和三四年四月二〇日法律第一四七号)がいずれも違憲であること(予備的に、自衛隊法三条及びこれに基づく現存の自衛隊が違憲であると考えることに合理性のあること)を確認し
(1) 控訴人が被控訴人に支払うべき金一二〇万円(昭和四六年一〇月九日相続にかかる相続税残額)は、被控訴人が右金員を自衛隊費に使用する行為を停止するまで、その支払いを停止する権利を有することを確認する。
(2) 控訴人に対し金一〇〇万五〇〇〇円を支払え。
(二) 控訴人の本件訴えのうち
(1) 自衛隊法(昭和二九年六月九日法律一六五号)は違憲であることの確認を求める部分
(2) 原審における予備的請求に関する部分
を差し戻す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決及び金員支払いを求める部分につき仮執行の宣言。
二 被控訴人
主文同旨の判決並びに担保を条件とする仮執行免脱宣言。
第二当事者双方の主張及び証拠関係
次につけ加えるほか、原判決事実摘示(ただし、控訴人に関しない部分を除く。)と同一であるから、ここにこれを引用する。
一 主張
1 控訴人
憲法九条は、国民に対し軍事費を徴収されない権利を保障するとともに、政府に対し租税収入をもつて軍事費を支出してならない義務を課している。したがつて、租税実体法並びに国税通則法及び国税徴収法については、政府において軍事費を徴収したりあるいは軍事費として(またはその疑いのある)支出するための税金を徴収することが、いつさいできないように保障する立法措置がされなければならないし、また現行法についても右主旨が実現されるように解釈してこれを適用し運用するべきところ、控訴人が本訴において納税拒否、停止権の根拠としてあげる前述の諸事由についても、これを相続税法四〇条に定める税務署長が税金の徴収を猶予することのできる相当の事由、並びに国税通則法六六条ないし六八条に定める期限内申告書の提出がなかつたこと、法定期限までに納付しなかつたことについて等の正当理由に該当すると解すべきであり、同法六〇条、六三条を適用するなどして、控訴人における納税債務の履行猶予、支払拒否の申出には正当性が認められるべきである。もし現行の所得税法、相続税法、国税通則法、国税徴収法について、右のような解釈適用をすることができないとするならば、右各法律はいずれも憲法九条に違反して無効であり(少くとも控訴人に対し軍事費相当分を負担させる限度で)、控訴人は右法律に基づく租税債務を履行する義務がない。
被控訴人は、納税義務と国費の支出との関連性を否定するが、租税は無目的に徴収されるものでなく、租税収入は予算によつて規定せられた需要目的以外に使用することができないという制約も受けるから、予算の支出項目中に自衛隊費が計上されている以上租税についても右に相当する部分(金一〇〇〇円につき金五十数円の割合)は、目的税もしくは目的税化したというべきであつて、租税収入と自衛隊費支出との間に直接的関連がある。
よつて、控訴人は、従前からの請求に追加し当審における新たな請求として、国税通則法、国税徴収法が違憲であることの確認、並びに自衛隊法が違憲であることの確認請求に関して予備的に、自衛隊法三条及びこれに基づいて設置された現行の自衛隊が違憲であると考えることに合理性のあることの確認をしたうえ、支払停止権を有することの確認及び支払済みの税金の一部の賠償ないし返還及び損害賠償金の支払いを求め、なお、原審において訴え却下の判決のあつた部分につき差戻しを求める。
2 被控訴人
控訴人の主張を争う。
二 証拠関係<省略>
理由
一 当裁判所は、控訴人の本訴請求中、自衛隊法、国税通則法、国税徴収法が違憲であることの確認を求める部分、並びに自衛隊法三条及びこれに基づいて設置された現行の自衛隊が違憲であると考えることに合理性のあることの確認を求める部分並びに原審予備的請求に関する部分は、いずれも不適法な訴であつて却下を免れないし、その余の請求部分は理由がないからこれを失当として棄却すべきであると判断する。その理由は、次につけ加えるほか、原判決理由(ただし、控訴人に関しない部分を除く。)と同一であるから、ここにこれを引用する。
1 原判決書二四枚目表一一行目中「自衛隊法」の下に「、国税通則法、国税徴収法」を、同裏一行目中「趣旨一項」の下に「、当審新請求」を、同二五枚目表二行目中「確認」の下に「等」を、同三行目中「自衛隊法」の下に「、国税通則法、国税徴収法」を、同六行目中「しかしながら、」の下に「控訴人の主張する前提として確認を求める部分は支払停止権確認請求の理由にすぎず、そのような理由は判決主文中に掲げる必要はなく判決理由中で示せば十分であるから、」を、同八行目中「切り離し、」の下に「すなわち右確認請求に対する裁判があつた場合にもなお且つ裁判の主文中で」を、同行中「自衛隊法」の下に「等」を、同行中「求めている」の下に「ものと解すべきも」を、同一〇行目中「自衛隊法」の下に「(国税通則法及び国税徴収法に関しても同様。)」を加え、同裏三行目中「主位的請求の趣旨二、三項」を「控訴の趣旨2の(一)の(1)」に改め、同二七枚目裏四行目中「なるもの」から同七行目中「ではないが」までを「は、控訴人における租税債務について履行を拒むことのできる権利をいうものと解されるが、右主張にかかる理由は、相続税法四〇条に定める税務署長が税金の徴収を猶予することのできる相当の事由もしくは国税通則法六六条ないし六八条に定める期限内申告書の提出がなかつたこと、法定期限までに納付しなかつたことについて等の正当事由に該当すると解すべき余地のないことはもとより」に改め、同八行目中「争いない」の下に「(ただし、控訴人は議決の効力を争う。)」を加え、同二八枚目表五行目中「憲法上の」から同八行目中「そしり」までを「憲法を頂点とする法秩序全体に照らしてもこれを正当化するに足りる根拠はなく違法行為たる」に改め、同一一行目中「できない」の下に「し、抵抗権に基づく超法規的な正当性も認められない」を、同二九枚目表四行目中「請求(」の下に「原審」を加え、同裏五行目中「主位」から同六行目中「四項」まで及び同三〇枚目表七行目中「主位的請求の趣旨五項」を「控訴の趣旨2の(一)の(2)について」に改め、同八行目中「(一)」を削り、同裏五行目中「当裁判所は」から同九行目中「となし得ず」までを「自衛隊の設置運営にともなう国家の歳出予算及びその支出が控訴人の納税義務と直接的、具体的関連性を有するものでないことは前示のとおりであつて、その点に関しては控訴人に権利侵害を生ずる余地がないし、そのほか右立法上行政上の国家作用の結果として、控訴人において具体的に公用負担が課せられたとか生活利益が侵害された等の実質損害の発生を主張するものではなしに、要するに控訴人は良心に照らして右国家作用を黙視することができないというにすぎないから、かかる個人的良心の痛みをもつて国家賠償法一条に定める国が公権力を行使して控訴人に対し損害を加えたという要件事実に該当するとはいえない」に改め、同三一枚目表二行目から同三三枚目裏七行目までを削る。
2 控訴人は、当審における新たな請求として、自衛隊法、国税通則法、国税徴収法が違憲であることの確認請求に関して予備的に自衛隊法三条及びこれに基づいて設置された現行の自衛隊が違憲であると考えることに合理性のあることの確認、あるいはこれらを前提として支払停止権を有することの確認及び支払済みの税金の一部の賠償ないし返還及び損害賠償金の支払いを求めるが、右の前提として表示する違憲確認は支払停止権確認ないしは金員請求の理由にすぎず、このような前提を主文において確認しなければならない理由のないことは前示説示のとおりであり、したがつて、これを独立した違憲確認請求としてみても、結局これは控訴人の憲法解釈もしくは信条の当否について判断を求めるものであつて、控訴人と被控訴人との間に具体的な権利義務に関する争訟が存するとはいえないから、その訴えは不適法として却下を免れない。
二 そうすると、控訴人の本訴請求中、自衛隊法が違憲であることの確認を求める部分について訴を却下し、税金支払停止権の確認及び損害賠償金の支払いを求める部分の請求を棄却した原判決は相当であつて、これに対する本件控訴は理由がないからこれを棄却し、次に当審における新たな請求である国税通則法、国税徴収法が違憲であることの確認を求める部分、自衛隊法三条及びこれに基づいて設置された現行の自衛隊が違憲であると考えることに合理性のあることの確認を求める部分は、いずれも訴えが不適法であるからこれを却下することとし、当審における訴訟費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させて、主文のとおり判決する。
(裁判官 舘忠彦 名越昭彦 木原幹郎)